同じブドウから造られる“ワイン”でも、赤・白・ロゼは「どの部位を、どれくらい、どう扱うか」でまったく別物になります。本稿では製法・科学・スタイル・提供方法・ペアリングまで、実用に役立つレベルで掘り下げます。
| 項目 | 赤ワイン | 白ワイン | ロゼワイン |
|---|---|---|---|
| 使うブドウ | 主に黒ブドウ | 主に白ブドウ(黒でも果汁のみ) | 主に黒ブドウ(短時間だけ果皮接触) |
| 果皮・種の扱い | いっしょに発酵(醸し発酵) | 圧搾後に果汁だけ発酵 | 果皮接触は短時間、のち果汁発酵 |
| 主な抽出成分 | 色素(アントシアニン)、タンニン | 酸、有機酸由来アロマ | 少量の色素、少量のタンニン |
| 発酵温度の目安 | 25–32℃ | 12–20℃ | 14–20℃ |
| マロラクティック発酵(MLF) | ほぼ実施 | 一部で実施(シャルドネ等) | スタイルにより実施も |
| 熟成容器 | 樽・コンクリート・ステンレス | ステンレス/樽(樽発酵も) | ステンレス中心、樽も一部 |
| 典型ABV | 12.5–15% | 11–14.5% | 11.5–13.5% |
| 供出温度 | 16–18℃(軽赤は14–16℃) | 8–12℃ | 8–12℃ |
1) 原料と栽培の要点
品種の皮厚:カベルネ・ソーヴィニヨンやシラーは皮が厚く、色素・タンニンが豊富。ピノ・ノワールは薄皮で繊細。
成熟度:フェノール熟(種や果皮の渋みの熟れ具合)が鍵。未熟だと渋みが青く、過熟だとアルコール過多になりやすい。
2) 仕込みと抽出技法
除梗・破砕:茎をどこまで残すかで渋み・スパイス感が変化。
キャップマネジメント:果皮が浮く「果帽」をパンチダウン(櫂入れ)やポンプオーバーで沈め、色・タンニンを調整。
浸漬の長さ:短い→フルーティー、長い→ストラクチャー増。
カーボニック・マセラシオン:二酸化炭素下で房まるごと発酵。いちごキャンディのような香り(ボジョレー等)。
3) 発酵・MLF・熟成
発酵温度:高めでポリフェノール抽出を促進。ただし過度は苦味・粗さに。
MLF:硬いリンゴ酸を柔らかい乳酸へ。口当たりが丸く、バター/クリーム様ニュアンスも。
熟成容器:
4) テイスティングの観点
色調:紫が強い=若い、レンガ色=熟成。
構成要素:果実味/酸/タンニン/アルコール/余韻のバランスを観察。
5) 料理ペアリングの指針
タンニン×タンパク:赤身肉・脂の多い料理と好相性。
ソース濃度:濃いソースには骨格の強い赤。
6) サービス
温度:16–18℃。軽赤(ボージョレ等)は14–16℃。
デキャンタージュ:若い力強い赤や沈殿のある熟成赤で有効。
スタイル例:
1) 果汁中心の発酵が生む“清澄感”
果皮・種を外すことで、酸・アロマが前面に。発酵温度は低めで香りを保持。
2) 醸造オプション
・シュール・リー(澱接触):澱上で熟成し、旨味・クリーミーな質感を付与。バトナージュ(撹拌)で厚みを調整。
・樽発酵/樽熟成(シャルドネで顕著):バター、ナッツ、トースト香。産地やトースト度で風味が変化。
・MLFの是非:実施で酸が和らぎ、クリーミーに。非実施でシャープな輪郭。
・スキンコンタクト(短時間):近年増加。香味に厚み、オレンジワインとの境界も意識。
3) 甘辛の幅
辛口(Dry)からやや辛口、中甘口、甘口まで。糖(RS)の量と酸のバランスが鍵。
例:リースリングは辛口〜極甘口まで縦断的。
4) 料理ペアリング
・酸×塩味:魚介・塩味・柑橘との相性が抜群。
・樽×クリーム:樽香あるシャルドネはクリーム/バター系に好適。
5) サービス
・温度:8–12℃。アロマティック(ソーヴィニヨン・ブラン等)は低め、樽有りはやや高め。
スタイル例:
1) 製法の三本柱
2) スタイルと色
・色合い:玉ねぎ皮色〜サーモンピンク〜チェリー。
・味わい:多くは辛口。わずかな残糖で“ジューシー”に見せるスタイルも。
3) 料理ペアリングとサービス
・万能性:前菜、サラダ、ピザ、BBQ、アジア料理まで守備範囲が広い。
・温度:8–12℃。暑い時季はさらに低くしても良いが、香りが閉じ過ぎない程度に。
スタイル例:
・色素:赤はアントシアニンが主。pHや酸素管理、共色作用(コピグメンテーション)で色安定性が変わる。
・タンニン:主に種・果皮・樽由来。凝縮度と粒度(きめ)で口当たりが変化。
・酸とpH:白は総酸が高くpH低めになりやすい→清涼感。赤はpHがやや高め→柔らかい印象。
・還元と酸化:白/ロゼは光劣化(ライトストラック)に敏感。赤は酸化対策とSO₂管理が熟成寿命を左右。
「赤は常温」:日本の室温は高めになりがち。赤でも16–18℃を意識。
「ロゼは甘い」:辛口が多数。色の濃さ=甘さではない。
「白は冷やせば冷やすほど良い」:冷やし過ぎは香りを潰す。8–12℃目安。
「樽香=高級」:樽の使い方はスタイル選択。過多は果実を覆いがち。
買い方:
用途で選ぶ(食中用/単体で飲む/保存向き)。
産地×品種の“典型”から入ると学習効率が高い。
保管:
12–15℃、光と振動を避け、横置き(コルク乾燥防止)。
開栓後は冷蔵:赤2–3日、白/ロゼ3–4日が目安(スタイルにより差)。
グラス:
赤=やや大きめボウル、白/ロゼ=小ぶりですぼまりのある形状。
赤×肉:タンニンが脂と好相性。ソース濃度を赤の骨格と合わせる。
白×魚介:酸が塩味・柑橘と好相性。樽有り白はクリーム系へ。
ロゼ×幅広い料理:前菜〜BBQ、スパイス軽めのアジア料理まで万能。
赤:
ピノ・ノワール(繊細・出汁的)→ 和食やキノコ
カベルネ・ソーヴィニヨン(力強い)→ ステーキ、ハードチーズ
白:
ソーヴィニヨン・ブラン(シャープ)→ サラダ、山羊チーズ
シャルドネ(樽有り)→ クリームパスタ、ローストチキン
ロゼ:
プロヴァンス(淡色辛口)→ 地中海系の前菜、寿司
MLF(マロラクティック発酵):リンゴ酸→乳酸への変換。酸が和らぎ、質感が丸く。
シュール・リー:澱上での熟成。旨味・粘性アップ。
バトナージュ:澱撹拌。クリーミーさを調整。
カーボニック・マセラシオン:房ごとの密閉発酵。キャンディ香・軽快さ。
ライトストラック:光による劣化。白・ロゼで起きやすい。
赤・白・ロゼの違いは、果皮・種の扱い/抽出の度合い/温度管理/熟成容器という製法上の選択から生まれ、結果として色・香・質感・相性・提供温度に反映されます。基礎構造を押さえるほど、ラベルやテイスティングノートの理解が一段深まり、料理やシーンに“最適解”を選べるようになります。
「何を誰と飲むか」
「誰と何を飲むか」